おじさんに心を乱された
人事異動から1週間。
はじめのうちは、引継ぎの打ち合わせで忙しかったこともあって気が紛れていた。
でも私の心のバランスを乱した原因は忙しさだけじゃなかった。
同僚のおじさんが私に無意識に投げかける、思いやりのない言葉が私の心のバランスをどんどん崩していった。
私は、このおじさんが担当できなくなった大切なクライアントの担当をすることになっていた。
1社担当するだけで業務ボリュームが倍増するくらいのビッグクライアント。
このクライアントを攻略するために私の全労力が割かれていた。
相手が発言の裏側を勘ぐってしまうところのある私は、そのおじさんが私に向けて発言がすべて自分に対しての嫌みに聞こえた。
「俺はこんなにもこのお客様のことを知ってるんだぞ」
と言わんばかりに、ビッククライアントを引き継いだ私に、説教じみたクライアントとの接し方を説かれた。
そして毎日のようにマウントを取られた。
そんなに担当したいなら、担当外されないように誠実に対応すればよかったのに・・・・
そう思いながら、時間の余裕がない中で、いちいち手を止めてそのおじさんのアドバイスを聞かなきゃいけなかった。
心の中では
「もうやめてくれ」
って思っているのに、表面上は
「いつも勉強になります、ありがとうございます」
こう言わなくちゃいけなかった。
そんな時間を過ごしていると、一つ一つは小さなことでも、どんどんストレスが溜まってしまった。
なんでおじさんにグチグチ言われないといけない・・?
いい気になったおじさんは、もっともっと私に色んな要望をしてくるようになった。
私の上司でもなんでもないただの同僚なのに、私の仕事ぶりを見張るような、小言を言われるようになった。
「●●できてる?」
「なんでこれやってないの?」
「忙しいの?」
・・・・いや、あなたが担当できなくなった顧客、私が代わりに担当してるからものすごく忙しいんですけど。
何度も言いそうになった。
でも喧嘩になるのは面倒だから耐え続けた。
その状況で私の時間はどんどんおじさんに侵食された。
質問があれば席に呼びつけられ、簡単なシステムの入力のチェックをさせられる。
ミス報告書の日本語の内容をチェックさせられる。
私が断らないのが悪いのだけど、どんどんどんどんおじさんに私の時間を侵食された。
なんでこんなおじさんの為に私の労力が割かれてるんだろう・・・
そう思えて仕方がなかった。
やってもやっても終わらない仕事
こんなおじさんの対応をしていたら、時間はどんどんなくなっていった。
やりたいことがあるのに、おじさんに邪魔をされる日々。
集中する時間があっても、おじさんに心をかき乱されてうまく集中できない。
こんなおじさんのためになんで私はこんなに心を乱されないといけないんだろう・・・・
そう思いながらどんどん仕事は溜まっていった。
分刻みでスケジュールを管理しないと追いつけなかった。
もう全部を完璧にこなすことはできなかったから、優先順位をつけ、「やるべきこと」と「やらなくてもいいこと」をシビアに分けた。
営業職だったので、数字につながる仕事に優先して時間を使った。
そしたらこれまで私が楽しいと感じていた、転職相談者の方と定期的に設けていた雑談の時間が削られてしまった。
大切にしてきたことに時間が割けなくなった
転職エージェントでの仕事は大好きだった。
ただ登録に来た人の希望条件を聞いて求人を紹介するだけじゃない。
そんな仕事だったら、AIだってできるし、こんなオペレーション業務に価値はないと思ってた。
この仕事はどれだけその人の生い立ちを理解できているか。
これが一番重要だと思ってた。
この人はこういうバックグランドを歩んで生きているから、きっとこう感じているんだろう…
そんな想像力をもって話をすると、相手の今の状況や思いをよく理解することができた。
この仕事では他人の気持ちを察しすぎる私のコンプレックスがいい形で活かせていたと思う。
声色や表情で、本当はこの選択に納得してないんだろうなとか、
本当はもっと言いたいことがあるんだろうな、と察することが得意だった。
だから私は面談をして、この人の力になりたいと思った方には、求人紹介以外で定期的に連絡をして、近況を伺っていた。
特に近況に大きな変化がなくても、趣味の話とか、お子さんの話をしてくれる。
その様子を伺いながら元気そうだなとか、こんないいことがあったんだと、心の動きを観察していた。
この仕事をする上で私が大切にしていた時間だった。
でも、業務量が増えた当時、この時間は「お金にならない時間」として削らざるを得なかった。
仕事をする上での楽しみでもあったし、転職希望の登録者からはこの時間に価値を感じてもらえていた。
「あなたは何もなくても連絡してきてくれるね。」
「登録者としてじゃなくて人として接してくれるね。そんなエージェントの人、いないよ。だから信頼できるよ。」
そう言ってくれる方が多かった。
でもそれができなくなった。
自分の価値を奪われた気がした。
悲しかった。
それでも頑張ってしまっていた
私はまだ自分の心のバランスが崩れかけていることに気づかなかった。
それでも自分が会社に適応できないこと罪悪感を感じていた。
「時間が足りないのは私の仕事の進め方が遅いんだ」そう思って自分を適応させようとした。
仕事を家に持ち帰って対応したり、土日も仕事のために調べものをしたり、月曜日からスムーズに仕事が進められるように頭の中を整理したり。
仕事以外のことを考える時間がなくなった。
そしたらその翌週から急に限界がきた。
次回に続きます。
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